SSブログ

オートバイの旅日誌(20) USA [3-USA]

オートバイの旅(玉井洋造の旅1976) 日誌


(20)-1976/10/18 USA


FH000018.jpg

-
1976/10/18           ハイウェイ60号線
-
 真っ赤な夜明けの空を見ながらロッキー山脈を上り下りする。バイクは非常に好調になった。6速のギアーでどんどん登っていく。コーヒーを飲もうと思うが、どの店も窓が小さい。店の中からバイクの見張りができそうにない。
- 
 ある店に入った。コーヒーの味もメキシコ風になって強い。暑さに勝つために必要なのだろうか。あるいは水は悪いのかもしれない。出された水はすごい味がした。
-
 ここアリゾナも、あまり裕福ではないらしい。モービルハウスという家が非常に普及している。トレーラ式のキャンピングカーの超大型で、いわば車輪のついている家だ。町の周囲にはその家の村がある。そこはキャンプ場で、土地付きの家が持てない人達が住んでいるのだ。そういうキャンプピングカーの中で生まれ、育つ子供も増えているようだ。なかには一生を車の中で過ごす人もいるのかもしれない。
-
 グローベの町からフェニックスまでUSハイウェイ60号線を下っていく。赤い岩に切り立った崖や地底旅行をするような奇怪な風景が次々と現れる。大きなサボテンも出現し始めた。カナダの森林地帯を思い出すと、まるでウソのように景観ががらりと変わった。
-
 フェニックスでは、大学の先輩の家に滞在する。きれいなアパートで、私が触るものすべてが汚れてしまいそうだ。汚い私の荷物など置くところがない。
-
1976/10/19    先輩の家
-
 先輩の家に3日ほど滞在することにして、バイクの整備をする。9時から3時ごろまで、アパートの人たちと話しながらピストン、リング、ベアリングの交換をする。
-
 夜は、このアパートの共同施設を見て回った。プールが2か所と、ジェットノズルから空気を噴き出している温水プールもあった。さらにビリヤード2台と卓球台もある。そして床に寝そべってテレビを見る部屋があった。


-
1976/10/20    天気予報
-
 これから先の連絡方法、フィルムや手紙の輸送方法、パーツの補給の方法を考えた。ミッションオイルの交換、クラッチ版の点検をする。整備計画書通りに4万キロ時点の整備をした。
-
 荷物の量を減らしたいが、今の時点では、まだ何も捨てる勇気がない。しかし、このままでは南米やアフリカの旅はできそうにない。捨てるとすれば、スペアーの手袋、雨合羽、フィルム、薬、地図、ガイドブックぐらいだ。
-
 スペアーパーツは登山用のザックに詰めて背負っていたが、あまりにも重かったので、糸が切れてしまった。釣り糸で修理する。
-
 夜、テレビの天気予報は、明日から天気がくずれることを報じていた。北から冷たい高気圧が南下して、アメリカ全土を覆いつくしている。北部では雪が降り出し、5大湖周辺はマイナス気温になったという。アリゾナ周辺以外の地域は、最低気温がすべてマイナスになった。


FH000023.jpg


-
1976/10/21    作業用チョッキ 
-
 天気予報とおり、雨が降り出して寒くなった。出発を一日延長する。
-
 手紙を書き、ビザの取得計画を考え、パーツのチェックリストを作る。走行中の旅の安全を考えて、スーパーで反射テープ付きの道路作業用チョッキを買う。バイクの後ろに貼り付けて、後方の車が確認しやすいようにした。
-
1976/10/22    雨合羽の修理
-
 先輩は8時前に仕事へ出かけて行った。私も9時には部屋を片づけて出発。実家から送られてきた荷物が増えて、バイクはずっしりと重い。これから先の旅の長さを感じる。フェニックスを離れると、すぐに雨が降り始め、気温も急激に下がった。
-
 17号線を北上して、オークキャニオンへ行ってみる。大自然の浸食作用による、想像を絶する造形に目を見張った。
 フラグスタッフの町を通過して、その先のカイバブ湖キャンプ場へ行ってみると、その上空だけに雨雲があり、雨の中でテントを張ることになった。バイクの整備を中止して、テントの中でズボンと雨合羽の修理をする。
-
1976/10/23    グランドキャニオン
-
 雨の中をグランドキャニオンに向かった。64号線を北上する。大平原をバイクは好調に走った。
-
 グランドキャニオン村に着くと、雨がやんで陽が照り始める。その村のガススタンドはセルフサービスで、トイレも水も有料だった。
-
 女主人は親切だった。私が店の横で休んでいると、トイレの合鍵をわざわざ持ってきて手渡した。私の汚い顔を見かねて、洗えと言っているようだった。横のレストランで雨合羽を着たまま日誌を書きだしたが、靴が濡れているので、寒さのため足がガタガタ震えた。
-
 公園を歩いていくと、道路の真中にゲートがあり、入園料2ドルを取られた。(あーあーもったいない。)しばらく進むとキャニオンのリム(縁)の見晴らし台に着いた。パーキング場は、どこから集まってきたのか、キャンピングカーでいっぱいだ。キャニオンの北側は雪がちらついているのに、驚くぐらいの旅行者の数だ。
-
 リムに沿って西側の道路の端まで行ってみる。のぞき見台があり、いろいろな角度から谷の内側をのぞくことができる。ニューメキシコ、アリゾナの大きな荒野の自然を見てきた私にとっては、それほど感動的なものではなかった。できれば、もっと自然な形で見たかった。入園料を払って展望台からのぞくなんて、どこかおかしい。
-
 アメリカの大陸の美しさは、複雑な構成のものではなく、単純な構成の美しさであり、規模の大きさによる驚異の美しさのようだ。
-
1976/10/24
-
 朝の気温はマイナス2度。東へ向いて進むので、朝日がまぶしい。大平原を進むと、ハイウェイに沿って並ぶ掘っ立て小屋でインディアの子供たちがヘアベルトやネックレスを売っている。一本も樹木のない土地だ。彼らの家はハイウェイからは見当たらない。
-
 アリゾナ州道264号線を走りながら、映画「バニッシングポイント」の舞台を思い出す。そんな感じの土地だ。大平原に突然上り坂が現れる。
登り切るとまた、遮るものがない地平線が続く。断層を超えたのだ。
-
 セカンドメサという小さな村の店で、背後から「バイクの調子はどうですか。」と突然声を掛けられた。インディアンの研究をしているという日本人だった。その周辺のインディアンの部落を教えられ、ぜひ行くようにと勧められた。そのあたりも、また一本の樹木もないところだ。
-
 ケーンズキャンプの町に3時前に到着して、町はずれにある無料キャンプ場を見つけた。昔からのインディアンの町らしく、谷の中にあった。日本の谷とは違って、大平原にできた谷だ。ものすごく広いもので、その中に小さな川が流れている

-
-



共通テーマ:バイク