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オートバイの旅日誌(10) カナダ [2-カナダ]

オートバイの旅(玉井洋造の旅1976) 日誌


(10)-1976/09/01 カナダ 


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1976/09/01  エンジンのキー
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 朝から、黒い雲が空を覆っている。ホンコンの若者から粉末の健康薬をもらって走り出す。しばらくすると冷たい雨になった。前進するのがいやになる。トラックとすれ違うときは水しぶきが舞い上がり、前方が全く見えなくなる。
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 プリンス・ジョージに着いてからは、忙しい時を過ごした。ヤマハの店で風防を買って保険金請求書をを作り、保険会社へ送った。以前のものは日本製で2000円の安物だが、今度は15000円の高価なものが付けられた。店の人は親切で、以前の風防の布たれを改造して取り付けてくれた。
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 ヤマハの店は日本のように小さなところではなく、展示場と整備工場が分かれている立派なところだ。しかし、店の看板は小さく、店内にヤマハのポスターが少し張ってある程度だ。また、メカニックも修理屋さんという感じではなく、技師という態度で余裕をもって仕事をしている。しかし、仕事のスピードが遅いのには閉口した。
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 町を離れる時も雨は降り続いていた。雨の中を走るのはいやだが、町の中にいては、寝る場所がないので飛び出した。身体が冷たくなり、もう走るのが嫌だと思ったころ、レストエリアが見つかった。雨の中のテント張りも難儀なものだ。もう何もかも濡れてしまている。
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 テントを張っていると若い男女が徒歩でやってきた。傘も持たずに、こんな寂しいところで何をしていたのだろう。早口の英語で話かけてきた。エンジンのキーを車の中に忘れて困っているらしいので、針金をわたしてやったら、しばらくして車に乗って戻ってきた。針金の太さがちょうどよくて、ドアの間からドアロックを外したそうだ。彼らは喜んで、一緒にビールを飲もうやと出してくれた。生ぬるかったが、とてもうまかった。私は、この日、水の補給を忘れて喉がカラカラだったからだ。
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 彼らが立ち去ってからも、水が欲しかったので、雨で濁った川の水を飲んでみた。その味は、民家でもらう水と同じだった。カナダやアラスカの水は飲んでも良いと聞いていたから、町はずれに住んでいる人たちは川の水を使ているんだろう。
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1976/09/01   無料キャンプ場
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 あと120キロでカナディアンロッキー山脈の国際観光都市ジャスパーだ。素晴らしい景観を期待して急いでいると、前方に雄大な岩山が現れた。雨雲が低く取り巻いているため、山の下半分しか見えないが、切り立った岩肌に雪の張り付いた姿が私を立ち留まらせた。こんな所にこんな素晴らしい山があるなんて・・・みんな知っているのかな。マウント・ロブソン12920フィート。
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 ジャスパーの町に入ってしまうと、寝る場所に困るので道路わきでキャンプする。排気音のせいか、夜中に何回も目がさめ、夜明けが待ち遠しかった。だんだん日が短くなったようだ。
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 いまやっとカナディアンロッキー越えつつあるが、この山脈を超えるまで寒さがついて回ることになりそうだ。夜明けとともに起きて、前の川で洗濯をするつもりであったが、雨が降ってきたので、テントの中で雨合羽と革靴の修理をする。
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 雨上がりの山の中は寒い。この日も切り立った山が続く。やはり上半分は雲の中で、天まで届いているようだ。いつか登ってみたい。
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 イエローヘード峠(5760フィート)を超えるとアルバータ州だ。その標高の写真を撮りたいと思うのだが、寒くてバイクを停める気分にもなれない。さらに先に行くと、ジャスパー国立公園の検問所があり、入園許可書を渡される。
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 ジャスパーに到着。ガスの補給と食料の購入をする。観光と登山の基地らしく、ザックを背負った若者が多かった。
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 コーヒーでも飲んで身体を温めたいと思うが、私を入れてくれそうなカフェーはない。すべてレストランと看板を掲げており、白いテーブルクロスが掛けられ、どのテーブルにもカップ、フォーク、ナイフが並べられている。この町は私とは相性が悪そうだ。
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 カナダやアメリカでは、ガススタンドに無料の地図を置いているので、訪ねてみたら、60セントだという。それじゃ水の補給をしようと思ってたずねたら、他のスタンドへ行けよと言われてしまった。アメリカには変な意味のサンキューがある。そんな相手の言動に対しても、こちらは、よく私の言葉に対して返事をしてくれましたね。と紳士的にサンキューという。そう言ってそこを出ようとしたら、トイレで水を入れろと言ってくれた。
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 やっと客が大勢いるカフェテリアを見つけたので、ここなら大丈夫と思って入っていったところ、どうもよそよそしい。私が「カフェー・プリーズ」いうまで誰も来ない。隣の席の人にはお替りしても私には無視だ。トイレで鏡を見た。髪はくしゃくしゃ、ほこりだらけで髪の毛のツヤなどない。顔は真っ黒でところどころに黒いオイルがついている。我ながらものすごい顔で、敬遠されるのも無理はない。
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 この店は自体は、あまりいい感じではなかったが、サイモンとガーファンクルの曲が流れていて、私の気持ちを和らげてくれた。
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 町を飛び出し、昼ごろ、川岸でパンをかじる。初めてマーガリンをつけてみた。1ポンド(454グラム)で59セントの安いやつだ。
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 素晴らしい景観が続いた。ちょっと走っては写真を撮るので、距離は全く伸びなかった。それほど素晴らしかったのである。
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 しかし、公園内なのでレストエリアにはキャンプ禁止とあるし、キャンプ場は有料とあって困った。探しながら進んでいると、一か所だけ、管理小屋も料金表もおいていないキャンプ場があった。3時前で少し早いがキャンプすることにした。
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 公園内を少しうろついた後、バイクの整備をする。プラグのかぶりが激しかったので、オイルポンプを調整してオイルの出る量を減らした。万一焼き付いたら困るが、メインジェットといじる前にこれをやってみたかった。
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 荷物を調べてみると、全部の物が濡れており、特にバイクのスペアパーツが錆びてしまっていた。ベアリング類はサンドペーパーで削ってオイルを塗る。持ち歩くだけで大変な量があるのに、品質の管理まで気を使わなくてはならないとは思わなかった。
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 ここは無料キャンプ場と思っていたのに、暗くなってから集金人がやってきて、3ドルを取られてしまった。眠ってしまうまで3ドルのことが頭から離れない。一日の食事代より高いのだ。もう決してキャンプ場には足を向けないぞと決心する。この国に無料のものなんてあるはずがないのだ。(チクショウ。)

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