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オートバイの旅日誌(12)カナダ [2-カナダ]

オートバイの旅(玉井洋造の旅1976) 日誌


(12)-1976/09/07 カナダ


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1976/09/07   100頭以上の牛
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 ガススタンドに入って「寒いですね」というと「山では雪が降っているよ」と返ってきた。(早く南下してサンフランシスコへ着かなくては。北アメリカに冬が近づいている。)
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 この日から一日の走行距離が伸びそうだ。小麦畑ばかりで、何も興味を引くものがないから、バイクを停める必要もない。
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 小麦畑の上を突風並みの風が吹いている。進む方向によっては追い風になり、スピードがどんどん上がる。しかし、向かい風になると、いくらスロットルグリップを回しても70キロ以上は出ない。追い風の時にトラックとすれ違うと、ものすごい風圧を受ける。風防の中に頭を突っ込んで避けるが、時たま忘れると風圧で顔が上を向いてしまう。
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 天気が悪くなってきた。この大平原では、先の先まで地形や空の様子が見渡せるから、どこで雨が降っているかもわかる。自分の進路に雲から雨のカーテンが降りているときは、腹に力を入れて突っ込んでいく。雲の下に入ると急激に気温が下がる。雨と思っていたものは霰だった。ヘルメットに音をたてて当たる。
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 牧場の中を100頭以上の牛が一列に連なって、水飲み場へ向かっている。写真と撮ろうと思ってバイクを停めた。それに気が付いたのか、牛たちも止まってしまった。全部がこちらを見ている。100頭も牛の注目を受けるということが、どんなに怖いことか・・・。
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1976/09/08   タバコ
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 牛の鳴き声で目がさめた。プラグのカーボンを掃除して走り出した。ロッキー山脈から引き下ろす追い風に乗って、快調に飛ばす。100キロも進むとレジナの町の到着。残りの日本円3万4千円をカナダドルに両替する。1ドルが320円とアラスカよりひどいレートだ。銀行員が喜んでいるように思える。
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 カフェーでスペアパーツの注文票を書いて、いつもと同じように長居してしまう。コーヒーは1杯しかサービスがなかったが、他の客がいなくなってからは2回もカップからこぼれるくらい注いでくれた。本当に嬉しくて、チップをあげたいと思った。がらにもないことだが、真実そう思った。
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 さて、いくらあげようかとか。財布に32セントあたので、それを全部あげた。サンキューといって受け取ったが、喜んでもらえたかな。そのとき、ついでに水筒に水を入れてもらった。それが真っ黄色いで、私はすごい水をくれたものだなとびっくりしたが、後でそれがレモネードの味がする水だったので、感激した。
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 旅に出て初めて、しみじみと夜空を眺めた。テントの中から顔だけ出して見たが、期待したいたほどたくさんの星は見えなかった。なぜだろう。別にスモッグも夜空を照らす町の照明もないのに・・・南米へ行けば、もっとすばらしい星空が見えるかもしれない。(この日の誓い。・・・テントの中で寝たばこをやめること。)寝ながらタバコ吸っていて、セーターに直径1センチの穴をあけてしまった。テントが火事になったら大変だ。
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1976/09/09    テンガロンハット
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 レジナを過ぎてから、さらに景色が変わった。麦畑だけになり、その倉庫がどの町にもシンボルマークのように色鮮やかに高くそびえているのだ。形もそれぞれ特色があって面白い。
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 ある小さな町へ食料を買うために入っていった。やはり小麦の倉庫が高くそびえている。馬をつなぐ横木でもあれば似合う古い町並みだ。映画「グラフィックアーツ」の中の幕末の町を思い出させる。1本しかない大通りを大きなフォードの車がV8のエンジンの排気音をとどろかせながら、ゆっくりと走り去る。テンガロンハットをかぶった老人がこちらをちらっと横目で見て、のろのろと歩き去る。映画の画面の中にいるようだった。1号線はまだまだ続く。マニトバ州に入った。バンドンを過ぎたところでキャンプをする。
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1976/09/10   予算オーバー
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 ウィニペグ市に到着。日本でよく耳にした町なので、どんなに美しい街だろうと期待していたが、ごく普通の大都市だった。住宅地は画一化された前庭のある家が並んでいたが、町の中心地は車があふれ、看板がいたるところにべたべた張られていた。私はこの町の美しい公園で休憩しようと思っていたが、すこし嫌気がさしてそうそう逃げ出した。
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 オタワに入る手前でキャンプ。バイクの整備だ。キャブのニードルの段数を変える。なかなかネジが緩まないので困ったが、数回ショックを与えて外すことができた。ニードルを1段下げたところ、回転の上りが良くなった。
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 バイクをいじっていると、リスが私のまわりを行ったり来たり走り回る。そしてキキキーと鳴く。後ろ足と尻尾で立っている姿はとてもかわいい。そのうち、私の足の上に乗ったり、バイクの上に乗ったり、テントのまわりから離れない。彼がそんなに私に親しくしてくれるので、私も彼を驚かしてはいけないと気をつかい、おかげで何もできなくなってしまった。
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 小鳥もやってきて広げていた地図の端にとまり、小鳥と目が合ってドキリとしたこともあった。飛び立つまで地図を持ったまま不動の姿勢でいた。
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 次の日、オンタリオ州に入った。湖と森林の国だ。美しい。
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 ドリデンの町でミッションオイルの交換をする。ドレインプラグとソケットレンチが空回りして、緩めるのに苦労した。ハンマーでたたいて緩めた。もちろん新しいドレインプラグと交換しておく。
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 キャンプしてバイクの点検をしたところ、後輪ディスクが非常に過熱しているので気にかかった。
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 テントにもぐり込んでからも顔だけ出して、12時ごろまで星を眺めていた。流れ星がたくさん見えた。これからの旅について考えた。もちろん、まず旅費のことだ。カナダでは予算オーバーだ。もっと一日の出費を減らさなくてはならない。タバコとコーヒーをやめよう。

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