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オートバイの旅日誌(5)アラスカハイウエー(USA) [1-アラスカハイウエー]

オートバイの旅(玉井洋造の旅1976) 日誌


(5)-1976/08/18 アラスカハイウエー(USA)


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1976/08/18      マッキンレー山
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 昨夜は、なぜか3回も夜中に目が覚めた。またしても朝から雨が降り続いており、気分がすぐれないが出発だ。チェーンの掃除と給油をする。テントの周りは白、赤、黄色の野生のケシの花が咲いていた。素敵だ。こんな寒い土地でよく咲くものだ。
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 公園の中を進んでいくと、ストップというサインがあり、それから先は無料のバスで行くようになっていた。車の量を減らして、その自然破壊を防いでいるらしい。アラスカへ来た目的の一つは、このマッキンレー山を見るためであったが、荷物も多いし、この雨じゃ見えないだろうとあきらめた。毎日前進することに慣れてしまっている私には、一日とどまって、マッキンレー山を見る気にもなれなかった。
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 公園内のガススタンドで、アメリカの青年が達者な日本語で話しかけてきた。大学で日本文学を専攻して、2年間日本に滞在したという青年は、ここで夏の間だけ日本語のガイドをしていた。彼はこの公園について話してくれた。私がストップをかけらた道路の真ん中にある小屋は、去年できたそうで、それ以来、公園の管理は非常に良くなったという。また、マッキンレー山の登山者の救助に関しては、1500フィートまでの登山は自由だが、それ以上は許可を取らなくてはならない。しかし、最近の登山ブームで、いくら貧弱な登山パーティーでも、登山中止の強制はできないという。そして遭難救助の費用は公園が全部まかなっているそうで、登山者に遭難保険をかけさせようとしたが、裁判で保険の強制は、その金の払えないものから登山の自由を奪うものだとして、ダメになったという。
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 公園の管理は立派なものだった。園内にはいろいろと場所を示す標識があるが、日本のと比べると非常に見にくいものだった。木製で小さくて高さも低い。しかし、公園全体から見ると、それは自然景観をそこねない、すぐれた配慮だった。
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 雨の中を進む。寒さがきびしい。あまりにも激しい雨足でガススタンドに逃げ込んだところ、2人乗りのハーレー・デビッドソンも飛び込んできた。後ろに乗っていた女の子は、寒さのためにコートの下にジャンパーやらなんやら着ぶくれて、みじめな姿だ。
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 小降りになったところで、先へ進んだが、全身濡れて寒さに耐え切れず、その次のガススタンドでキャンプした。人のいる所のほうが安心だ。道路わきでテントを張っていると、野良犬らしきものが外をうろついていて怖い。後で会う人ごとに熊を見たかと聞かれたが、道路わきに絶えず熊が出ているらしい。もしかしたら、あれは野良犬ではなくて、熊だったかもしれない。
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1976/08/19      氷河
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 久しぶりに良い天気になった。すぐアンカレッジへ向かいたいが、きのう片方のエンジンが止まってしまったので、その修理をする。点火時期の調整、キャブレターの掃除とフロートレベルの点検をしてエンジンは快調になった。しかし、チェーンの伸び、ディスブレーキのパッドの早い消耗、それから前輪タイヤの片減りが気になる。まだ5000キロしか走っていないのだ。とても予定の2万キロも使えそうにない。
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 その日から、走行スピードを80キロに落とした。エンジンの回転も4500RPMを上限とした。あまりにも遅く感じられたが、肌に感じる寒さは少なくなり、バイクのためにも良いので、そのペースで進むことに決めた。
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 夏のアラスカはキャンピングカーばかりで、時どき乗用車が混じっている状況だ。大型トラックはほとんど見かけない。アメリカから、この大自然を求めてやって来る旅行者ばかりで、高速時の運転マナーは非常に良い。日本のようにバイクを無視するドライバーはいなかった。
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 天気が良いので風景を見ながら進む。道路からは民家は見えない。森の中にすっぽり隠れてしまったいるのだ。民家の存在はハイウエイに沿って郵便受けが並んでいるのでわかる。デザインの違いで、持ち主の個性が分かる。
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 アラスカ有数の大都市アンカレッジに到着するが、別に興味はない。銀行、郵便局、ストアへ寄るだけで、さらに南下した。
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 アンカレジの近くの入江は非常に広大な浅瀬になっていた。山は海に迫り、干潮の時、逃げ遅れた海水は、遠浅の上を川のように弧を描いて海へゆっくりと流れていく。夕日がその流れを輝かせていた。
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 ホマーへの道を進むと、雪をかぶった山々が現れ、谷を埋め尽くした氷河を見ることができた。日本で地図を眺めている頃は、アンカレジの南側にこんな素晴らしい景観があるとは思わなかったので、嬉しくなった。もうけものだ。
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 しかし、ともかく寒い。バンクーバーを出て以来、いつ雨が降りだしてもいいように、雨の日も晴れに日も雨合羽を着たままである。
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 大自然のアラスカでも、自然破壊を見ることがあった。ホマーへ進んでいると、見渡す限り杉の樹海が3メートルぐらいので成長がストップし、すべて枯れてしまっていた。枝がだらりと垂れ下がり、白と茶色のカビが生えたように、死の匂いのする気味の悪い風景だった。いったいどうしたんだろう。このハイウエイの影響だろうか。気象の異変によるものだろうか。



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