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オートバイの旅(44)Argeria [5-アフリカ]

オートバイの旅(玉井洋造の旅1976) 日誌


(44)Argeria-1978/01/16


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1978/01/16         「サハラ」
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 空が明るくなったので、テントからはい出した。真平らな砂の世界だ。誰もいない。まわりの砂漠の世界と比べると、なんと自分とテントの中の世界が小さいことか。・・・自分自身がみるみるうちに小さくなっていくようだった。無性にさびしい気持ちに落ち込む。それを払いのけようと鼻歌を歌う。口笛も吹く。風の音が音楽のように聞こえる。耳鳴りがするほどの静かさだ。テントを片づけ、そこから逃げ出すように出発した。
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  また、昨日と同じ洗濯板の道が続く。40キロ行ったところで、池の底のようなところに出た。路面の表面の粘土がきれいに乾き、アスファルト舗装のようだ。久しぶりに70キロのスピードで進んだ。50キロ地点を過ぎてもアスファルト舗装の新しい道に出ない。いらいらしたとき、灰色の山を這い上がっていく黒い道路を見つけた。うれしくて、凸凹も気にしないで突き進んだ。そして、大きな溝に落ちて転倒した。バイクはバラバラになったような大きな音をたてたが、幸い走るのに支障はなかった。
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 その新しい道路に駆け上った。アスファルト舗装の幅広い道路はアラックの方向へどこまでも伸びているではないか。苦しい思いをしてガタガタ道を走ってきたことがばかばかしく思える。でも、良い。とことんサハラの道を走ったことに満足を覚える。
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 その場に座り込んで、今までの道のりを振り返った。辛かったけど、もうその辛さに実感は忘れてしまった。キャブが故障したり、ガソリンを流してしまったり、何度ももうだめだと思いながら、ここまで来てしまった。
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 砂の表面に大きく「サハラ」と書いてやった。
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 さあ、100キロ先のインシャラへ出発だ。いつも低速で走っていたので、バイクは不機嫌だ。アクセルを開けると、すぐにミスファイヤーしてしまう。プラグを交換する。どうやら、アルジェリアのオイルが悪いようだ。
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 砂の色が黄色に変わった。砂粒も細かくなったようだ。風によってすばらしく美しい砂紋ができる。
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 風が急に出てきた。バイクを少し傾けて進んだ。完璧に2車線のアスファルト舗装だから、すぐにインシャラに着くと思ったが、意外と時間がかかった。道路わきには昔の砂道が見える。
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 ついに前方の砂の中に町のようなものが現れた。インシャラの町。やはり土色の町だった。緑が全くない小さな町だ。左折して町に入る。
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 今日は特に寒くて、町の中を風が渦巻いていた。もっと暖かくて明るい町であってほしかった。私の心は、寒くて暖めてほしかった。
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 インシャラの町の裏には大きなヤシの木の畑があった。ナツメヤシの実を採る。その周りを大きな砂丘が取り囲んでいた。その丘で銀色のアリを見つけた。アリも直射日光から身を守るために銀色になったのだろうか。銀色の毛が密生しているようだ。そこで10日間キャンプした。イギリスからトラックで旅行しているグループと親しくなった。彼らは、ここまできて、エンジンを壊してしまい、その修理のためにいつ届くかわからないエンジンを1か月も待っているという。
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 インシャラからエルゴレア、ガルダイアを通り、北上する。寒くなった。いつもの完全防寒姿になる。エルゴレアからは舗装路も2車線になっていたが、ところどころ砂が吹きたまっていた。
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 大地を登ったり下ったりして、台地の谷間に下りていくと、突然、左側の岩の間から光輝く壁が目に入った。アフリカの旅を通して、これほど色鮮やかなものを見たことがなかった。今までは砂ばかりで、人工的なものは全くなかったので、非常な驚きとして感じられた。驚きのあまり自分の目を疑った。もう一度確かめようとブレーキを踏みそうになったが、急な下り坂だ。バックミラーに車が映ったので、走りすぎた。そして次の岩の間からもう一度見た。


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 ガルダイアの町だった。谷間の斜面にびっしりと色鮮やかな箱型の家が並んでいる。これまでのオアシスとは違い、すべての土壁の家がペンキ塗りされていた。丘全体が家で覆われ、その頂点にモスクの塔が建っていた。周囲の砂山の中にその町が黄金のように光輝いていた。
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 このまま通り過ぎるのが惜しくて、その町の裏にあるヤシの木の下でキャンプすることにした。この町のヨーロッパ的なにぎやかさを感じると同時に、もうアフリカの旅が終わりに近いことを感じた。
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 アトラス山脈の中に入って行くにつれて、草が多くなり、民家も道路わきに見られるようになった。羊の群れも見られるようになった。町の市場にも野菜類が豊富に並ぶようになった。
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 でも、空はどんよりと曇って寒くなった。ジェルファの町を過ぎると、今までとは違った下り坂になった。地中海へ向かって下っている。森があり、道路沿いには、きれいに並んだ苗木の植林が続く。ジェルファの町からアルジェへ延びる線路を見ながら北上する。地図に書かれていない村がいくつもあった。ガソリンもある。もう砂漠の孤独の走行ではなくなった。ガルダイアから車の数が多くなった。
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 メディアの町を過ぎたあたりが、この山脈の最高地点らしく、もう緑ばかりだ。その風景には、これから訪問するスイスのように美しく感じられた。数日前の砂漠地帯が信じられない。また、サハラ砂漠を本当に越えたことが、まるで夢のようだ。



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 牧草地の並んだ丘の風景は美しい。うっとりと眺めながら進む。いつの間にか首都アルジェに到着してしまった。そのまま町中を進んで行ったら、地中海に出てしまった。町はずれの海岸から見るアルジェの町は美しかった。地中海に打ち寄せる波は、アフリカの旅が終わって、これからヨーロッパの旅が始まるのだと強く感じさせた。アフリカを旅しているときはヨーロッパまで行けるのだろうかと、夢のように思っていた。とうとう地中海まで来てしまった。


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 北アフリカで、春になるまで過ごすためにチュニジアへ向かった。この辺は冬季に雨が集中するので、毎日の走行が嫌になる。また、牧場がどこまでも続くため、テントを張る場所が見つからない。あまりの寒さと雨で気が弱くなってしまい。普段はお金を使いたくないので行かないのだが、ホテルの下のカフェに入ってしまった。小さなガラスカップのアラビック茶を飲む。安くはないので、1杯の茶をちびりちびりと飲み、身体が温まるのを待った。持っていたタバコも濡れてしまって、火もつかない。
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 夕方になっても雨は降り続き、今夜はどこで寝ようかと考えた。この辺りの地形が分かっていたので、雨の中を走り回っても、テントを張る場所はないだろう。カフェの中庭に少し雨のかからない場所があったので、店主にここで寝かせてくれないかと交渉した。店主はボーイの青年に2階のホテルの部屋へ連れていくように言った。
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 次の日も雨だ。しかし、出発することにする。ずぶ濡れで、寒さに震え、無性に悲しかった。山を一つ越えると雲が薄らぎ、青空が出た。その青空の下に林があったので、そこへ入り込んだ。そこら中に衣類やシート、寝袋などを広げて乾かした。陽光が本当にありがたいと思った。
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 近くの集団農場の若者たちがやってきた。お茶や食べ物を運んでくれた。ここで3日ほど滞在する。彼らは映画やバーへ毎日連れて行ってくれた。バーへ行ったときなどは、4人で小銭を出し合って、コップ1杯のビールを注文して、私だけに飲ませてくれるのだ。彼らの気持ちが嬉しかった。


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